21世紀の科学と産業への貢献を目指して
在任期間 2005年6月1日〜2007年11月30日
河田 聡
(大阪大学・理化学研究所)
分光学は古くから物理学と化学の原点であり、天文学、物性物理、化学、医学・生物学、電気通信など、およそあらゆる分野の科学者が関わる学問です。(社)日本分光学会の歴史も、すでに54年を数えます。しかし、今なお、次々と新たな発見と新たな応用が分光学の分野に生まれつつあることは、分光学に関わる研究者のひとりとして、大いなる誇りであり喜びでもあります。
特に、最近のナノマテリアルとナノツールの研究の急速な進展と、超短パルスレーザーや高感度光検出器の開発は、新たな分光学の実験環境を我々に提供してくれます。いみじくも今年のノーベル物理学賞は量子光学・分光学の研究に授与されました。21世紀は、まさに分光学の時代です。
社会構造が世紀を跨いで再編されるいま、(社)日本分光学会は、時代の変化に応えて、新しい学会運営体制をいま再構築しつつあります。国の公益法人の見直しと呼応した形で、理事会では様々な改革の検討が進められてきました。会費でもって運営される社団法人である学会は、分光学の進展への貢献と共に、会員の皆さんへのサービス活動をより積極化していきたいと考
えています。学生会員の年会費は2000円まで下げ、またシニア会員制度(60歳以上の公職に就かない方)を設けて、会費を正会員の半額にするよう準備をしています。
これまでの専門部会を一旦終了させて、公募によって新たに専門部会を9つ設立しました。テラヘルツ分光や近赤外分光、高分解分光、レーザー誘起プラズマなどの実績ある分光学が、専
門部会において活発に展開されていくことを期待しています。北海道から九州まで、6つの地方支部を設立しました。春季の講演会では、アジアセッションを設けアジアと国内に住む国際的な研究者の交流の場として一般講演を英語化し、企業の方々には新製品紹介のランチョンセミナーをお願いし、またポスター発表者の中からベストプリゼンテーション賞を授与するなどの企画
を行っています。その結果、参加者は倍増しています。
理事会ではさらに、伝統ある分光学会測定法シリーズを見直して新たな展開を目指し、インターネット・ホームページを活用した学会活動、秋季講演会の形態の見直し、事務の簡素化と法人としての社会的責任の明確化、アジアの分光学会との国際連携、他学会のとジョイント企画など、多くの課題を検討しかつ実施に向けて決断と行動を始めています。
日本の学会・研究会やジャーナルの数は近年増加の一途を辿り、日本の研究者は学会発表やシンポジウム企画、原稿執筆に追われる日々です。分光学会は、会員が学会に対して本当に求めるサービスのみに特化しなければ、余計な仕事を皆さんに押しつけることにすらなりかねません。新たな会員サービスを展開しながらも、一方では従来の活動の見直しを検討していき
たいと思っております。
学会とは、人の集いの場です。それぞれの分野で分光学に関わる科学者や技術者が、分光学会を通じて知識・情報のみならず知己を得て人の輪を広げていただけるよう、今後とも努力していきたいと思っております。会員の皆さんのご支援とご協力をお願いします。
在任期間 2007年12月1日〜2009年11月30日
寺前紀夫
(東北大学・大学院理学研究科)
日本分光学会は1951年の分光化学研究会、分光学研究会の発足を経て1953年の正式発足以来半世紀以上の歴史を有する学会であり、現在は天文学、物理学、光学、化学、生物化学、生物学など広範な学問領域を横断する研究者が集う学際的な性格を持つ組織である。この学際性を活かして、種々の分野の研究者の交流により、分光学をベースとした研究のさらなる発展を期待している。
日本分光学会の会員の多くはそれぞれ専門の別の大規模な学会にも属していると思われる。そのような学会に比較すると会員数千人余の日本分光学会は小さな集まりではあるが、真に同好の士が集まっている分、機動性に富んだ活動を実施できる利点がある。10を越す専門部会では活発な活動が行われており、会員あるいは新規会員の積極的な参加により部会の活動と会員個人の研究のさらなる発展を願う次第である。
さて、学会とはどういう場所であるべきか、と自問するとき、とにかく参加して楽しい場所でなければならない、というのが私の想いである。学会の活動には、年次講演会や夏期セミナー、分光学に関わる出版事業、各部会の活動など多くの側面があるが、分光学の発展に資すると共に会員相互の交流と連携が進展することを期待している。年次講演会は分光学会の事業の中でも大きなウエイトを占める。自己の研究成果をアピールする、新しい知識を得る、知己を得る、友人と旧交を温め合う等々、学会に参加する動機や参加した後の果実は多岐にわたるが、再び参加したくなる気持ちが醸し出されるような学会でありたい、と考えている。
若い学生諸君や研究者にとっては、学会に参加することで、書物や文献でしか名前を知らなかった研究者と直接会話できる機会に恵まれる楽しみもある。私は学生であった頃、芳香族化合物の磁気円二色性について半経験的分子軌道計算を行っていた。二中心電子反発積分の計算では、西本―又賀の式や大野-Klopmannの式など、どの近似がより実験結果を再現するかを検討したことがある。その後、助手になってしばらくして重点領域研究の会議の後の十名程度の懇親会のとき、隣の席に座っていたのが西本吉助先生で、西本先生の独特の感性を備えた率直な話を身近に聞くことができる機会を得た。ウイーンで開催された、FTIRの国際会議では、FT法の分散型分光法に対する利点の一つであるJacquinot’s advantageを提唱したJacquinot氏が”I am still alive ……”とスピーチされたのがまだ耳に残っているが、会議に参加することで歴史上の人物かと思われた人の話を聞く機会にも恵まれた。また、この会議では、南茂夫先生ご夫妻や田隅三生先生、故山田晴河先生などとも会話する機会があった。一研究者として、年齢とは無関係に多くの人と意見交換をできる素晴らしさが学会にはある。
分光学をベースとした本学会に参画することで、シニアの研究者も若手研究者も、また学生諸君も自己の研究や思考法、価値観に新たな風が入り、それが学会ひいては社会の発展へとフィードバックされることを願っている。 |